その6 陥りやすい検索式立案の失敗事例
モノづくり企業がオリジナル商品を手掛けるときに特許に対するケアは必須です。事業を安全に進めるためにも、研究技術開発を効果的に進めるためにも、特許調査を実施することは必ず必要となります。
特許サーチャーが特許調査実務の担当を始めて、各種番号指定検索、出願人指定検索、特許分類指定検索、キーワード検索など、各種の検索式を立案し、検索により得られた母集合のスクリーニングを実施する経験を積み重ねる中で、検索モレに対する不安と闘いながら、膨大なヒット件数となってしまった検索母集合の絞り込みに苦労されていると思います。
この講座では、特許検索の実施プロセスについて、工程ごとの注意点について解説するとともに、モレが無くノイズが少ない検索を実現するために必要な「多面的アプローチ」について解説していきます。
6.陥りやすい検索式立案の失敗事例
モレが無くノイズが少ない特許調査の基本は『適切な特許分類を探索して指定する』ことと、『検索概念を表す類義語展開を行う』ことだと思いますが、この学びを得たばかりの検索ビギナーの方々が陥りやすい検索式の失敗事例を紹介します。
特許調査実務経験を積み重ねていく中で、「ヒヤリ」としたり、「やっちまった」という経験を何回かしながら、「2度と失敗はしない」との思いを繰り返して特許調査の品質を高めていくのですが、先人たちの失敗事例についても学んで、同じ失敗を未然に防止したいものです。
最初は、特許分類の指定のやり方に問題がある失敗事例を紹介します。調査テーマは「ウッドクラブのヘッド」に関する特許調査です。
図14には、特許分類を利用すると網羅的でノイズが少ない特許検索を実現できると学んだ、ビギナーAさんが立案した検索式を示しました。
ビギナーAさんは、予備検索で抽出した関連公報に付与されている特許分類を使って検索を行いました。具体的には、上記の3つの特許分類を抽出し、調査対象であるウッドクラブのヘッドに関するものに絞り込むために、抽出した3つの特許分類の全てに対して「ウッド」と「ヘッド」のキーワードを掛け合わせて検索を行ったようです。
この場合、①の検索式については何も問題はないのですが、②の検索式と、③の検索式については少し問題があるように思われます。すなわち、②と③の特許分類の内容を確認してみると、特許分類そのものに「ウッド」という概念と、「ヘッド」という概念が両方とも含まれているのです。つまり、キーワードを掛け合わせなくても、特許分類を指定して検索するだけで、ウッドクラブのヘッドに関するものに絞り込まれているということになるのです。
特許分類は上位から下位へと階層構造を有しています。実施する調査テーマに関連する特許分類を抽出するとともに、使用する特許分類が有する概念に合わせて、特許分類毎に掛け合わせるキーワードを選択して検索を実施する必要があります。
次に、検索概念に相当する類義語展開のやり方に問題がある失敗事例を紹介します。調査テーマは「携帯電話」に関する特許調査です。
図15には、モレを少なくしようと、類義語展開を一所懸命に行った、ビギナーBさんが立案した検索式を示しました。
ビギナーBさんは、予備検索で抽出した関連公報の中で「携帯電話」に相当するキーワード表現を拾い上げて、類義語展開に加えていきました。ある関連公報では実施例の部分で「携帯電話」と説明されていたものが、特許請求の範囲の中では上位概念の表現として『携帯端末』と表現されていました。また、別の公報では「PHS」の上位概念の表現として『通信端末』と表現されていました。ビギナーBさんは『携帯端末』も『通信端末』も、「携帯電話」の類義語としてOR条件で一纏めにして検索を行っていました。
この場合、図16に示したように、上位概念に相当するキーワードも類義語展開に加えたことで、モレのリスクは少なくなりましたが、「PDA」や「ノートPC」といった、携帯電話とは異なる『携帯端末』がノイズとして含まれてしまいました。また、「固定電話」や「デスクトップPC」などの、携帯電話とは異なる『通信端末』のノイズも含まれることになりました。
キーワード指定検索を実施する際には類義語を展開してOR検索を実施すべきですが、関連するキーワードをなんでもかんでも指定するのではなく、指定するキーワードが含む概念と、ヒットさせたい概念とのギャップをしっかりと見極める必要があります。特に今回の失敗事例のように、上位概念のキーワードを加えてしまうと、調査モレの危険性は低くなりますが、不要なノイズを増やしてしまいます。
では、ノイズが増えるからと言って、上位概念のキーワードを使うのを単純に止めにして、類義語展開から削除してしまうのはもったいない気がします。ですので、ノイズを拾う上位概念のキーワードについては、さらに関連する概念を掛け合わせて検索することでノイズの増加を防ぐことができるのではないでしょうか。具体的には、『通信端末』には「携帯、モバイル、移動」という携帯の概念のキーワードを掛け合わせたセットとして指定し、『携帯端末』には「電話、GMS、CDMA」という電話の概念のキーワードを掛け合わせたセットとして指定することで、ノイズを減らすことが可能になると思います。
多面的な検索アプローチを行う前に、適切な特許分類の探索し、その特許分類が含む概念を適切に指定した検索式を立案するとともに、キーワード指定検索を行う場合には、検索概念を表す類義語を上位概念から下位概念までのレベルを調整しながら展開して検索式に織り込む必要があります。
今回の特許検索講座の解説は以上です。今回で「中級編」の説明が終了しました。次回からは「上級編」にステージを上げて解説していきます。