その5 クリアランス調査のかんどころ
検索式立案プロセスを学んだ後には、できるだけ数多くの案件に取り組み、学んだ手法を自分のものにしていく必要がありますが、同時に、それぞれの案件に取り組むことで得られた新たな知見を蓄積していくことも重要です。
特に、「こんなことをすると調査モレが起こる」とか、「こうすると調査モレを防げる」とか、「こんな工夫をすれば効率的に欲しい特許を検索できる」といったノウハウを多く知ることで、特許調査の精度をさらに高めることができます。
この講座では、検索実務や検索事例研究活動により得られたいろいろなノウハウについて解説するとともに、効果的な学びの機会となる検索事例研究の活動の進め方を紹介します。
4.クリアランス調査のかんどころ
次に説明する特許調査の種類は、クリアランス調査を実施する場合のかんどころです。クリアランス調査では、自社の事業を推し進める際に、障害になると思われる、他社が保有する特許をモレなく抽出することを目的としています。したがって、調査対象となる特許公報の【特許請求の範囲】の記載内容を中心に調査を実施することになります。
(1)死滅特許は機械的に除外する
障害となる可能性を有する特許公報は、審査が終わり既に権利化が図られ、権利が存続している「登録特許公報」と、今後権利化される可能性を残している「公開特許公報」のどちらかになります。言い換えれば、既に死滅している「死滅特許」を除いた「生存特許」のみを対象に調査検討を行えば良いということになります。
そのため、図12に示したとおり、クリアランス調査(侵害特許調査)を実施する際には、検索式でヒットする回答集合の中の「死滅特許」は機械的に除外すれば良いのです。有料の特許検索データベースでは、審査経過データに基づき、生存特許と死滅特許とを検索により識別することが可能になっていますので、生死検索(生存と死滅とを識別する検索)が可能であれば、死滅特許を除外した回答集合をスクリーニングすれば良いことになります。
無料のデータベースであるJ-PlatPatには生死検索機能は有していませんが、死滅した特許を少しでも除外するために、出願日が20年以上前の特許を除外することは可能です。
(2)請求項(クレーム)の読み解き方
クリアランス調査でスクリーニングを実施する際には、【特許請求の範囲】【請求項】の記載を読み込み、自社の実施品(イ号)が、抽出した特許公報の【請求項】に記載された構成を有するか、否かを判断していきます。
具体的には、抽出した公報の【請求項】に記載された構成を全て備える場合には、権利侵害の可能性が考えられるので、【請求項】に記載された構成の一つ一つについて、実施品が備えているか、否かを見極めていきます。図13では、構成A~Cの構成からなる実施品が、抽出公報Ⅰ~Ⅴのそれぞれの【請求項】の構成を有しているのか否かを対比表にまとめました。
【請求項】に記載された構成の全てを備える「抽出公報Ⅰ」「抽出公報Ⅲ」「抽出公報Ⅴ」に対しては権利侵害の可能性を有することになりますが、【請求項】に記載された構成を一つ以上有していない「抽出公報Ⅱ」「抽出公報Ⅳ」については非侵害であるとの判定ができると思います。
【特許請求の範囲】の技術的範囲に属するか否かの判断を行う時には「均等論」などの微妙は判断が求められるケースもあるので、最終的には、弁理士の見解を得ることをお勧めします。
今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その6 無効資料調査のかんどころ」について解説していきます。
以上