その2 PCT日本語出願の検索のポイント

特許調査の出来栄えの合格点が70点であるとしたら、70点以上の調査を行っていれば事業活動に影響があるような問題は起こりにくく、問題が発生したとしても致命傷に至ることは少ないと思います。基本プロセスを手を抜くことなく実施することで達成できる70点の特許調査を、80点に、さらに90点にレベルアップさせるためには、基本プロセスのまわりに枝葉として存在する些細な工夫を一つ一つ積み上げる必要があります。

この講座では、特許調査の精度を高めるための細かなテクニックを、一つずつ取り上げながら、実際の事例を交えて解説していきます。

2.PCT日本語出願の検索のポイント

以前に提供されていた再公表特許は、2022年1月以降には発行されなくなりました。再公表特許は発行までのタイムラグが長く、出願の事実を把握するのが遅くなるというデメリットがあったものの、公開特許公報に含めて検索対象とすることができるというメリットがありました。しかし、再公表特許が廃止されたことにより、日本から直接PCT出願が行われた特許出願が国内移行された段階で発行されていた再公表特許は、公開相当公報として検索できなくなり、登録公報が発行されるまで国内調査で確認することができず、日本から直接PCT出願が行われた特許出願の存在を把握するためには、日本語の国際公開公報を検索することが必要になっています。

日本語PCT出願の国際公開公報は、一見すると、日本の公開特許公報と同じようなものに見えますが、国内特許検索で主に使われる検索タームである「FI」と「Fターム」は付与されていません。PCT日本語出願をモレなくヒットさせるための検索式を立案する際には、以下の3つの対策が効果的であると思われます。

  1. 「FI指定」検索を行う際に「ICP指定」も併用する
    調査テーマが「ゴルフクラブのヘッド」の場合、
    「FI=A63B53/04:ゴルフクラブのヘッド」を指定したら、「IPC=A63B53/04」の指定も併用する。ただし、FIはIPCの後追いで新設や改廃が行われるためにタイムラグがあることと、IPCはFIのように最新の分類コードを指定しても過去に遡及しない点に注意が必要です。
  2. 分類を上位展開する検索式を設定する
    調査テーマが「ウッドクラブのヘッド」の場合、
    「A63B53/04A:ウッドクラブヘッド」と指定する検索式を作ったら、
    「A63B53/04:ゴルフクラブのヘッド」を指定する検索式も設定します。ただし、「A63B53/04:ゴルフクラブのヘッド」には、アイアンもパターも含まれているので、「ウッド」のキーワードを掛け合わせます。
    FI指定した分類コードを上位化展開することで、IPC指定が可能な分類階層のコードを使用可能になることがあります。
  3. キーワード指定のみの検索式を設定する
    「ウッドクラブのヘッドを中空にしたもの」を調査する場合には、
    「A63B53/04A and 中空」と指定する検索式だけではなく、「ウッドクラブ and ヘッド and 中空」とキーワード指定のみの検索式を設定する。

次に、これらの対策が効果的であることを具体的な事例で紹介します。図4に示す公開特許公報とPCT日本語出願について、多面的な検索アプローチにより、どのような検索結果になるのかを確認してみました。公開①と公開②が公開特許公報であり、PCTが日本語PCT出願の国際公開公報です。

図4 検索ヒット有無の検証比較公報

図4 検索ヒット有無の検証比較公報

国内特許調査を実施する際に利用できる特許分類は、IPC、FI、Fタームの3つがありますが、IPCが細分化されたFIを検索のメインに利用した方が、より具体的な分類コードを使うことが可能となり、ノイズを減らした検索を実現できます。また、IPCやFIと分類細分化の切り口が異なるFタームを使用することも特定性が高い検索を実現することに繋がります。
しかし、図4でFIとFタームの付与状況を確認すると、公報①と公報②には付与されていますが、PCT国際公開公報には付与されていません。つまり、FIとFタームを指定した検索式ではPCT国際公開公報はヒットしないということです。

次に、今回の調査テーマにおいて、多面的なアプローチを展開した検索式と、各検索式における各公報のヒット有無を、図5に示しました。

図5 多面的検索アプローチとヒット有無

図5 多面的検索アプローチとヒット有無

S1~S7までの複数の検索ラインの中で、S2の検索式では、FIとIPCを併用するとともに、S1で指定した特許分類の上位階層の分類コードを指定しています。ここでは、前述の3つの対策のうち、対策(1)と対策(2)を実現したことになります。
そして、S7の検索式では、キーワード指定のみの検索式となっています。ここでは、前述の3つの対策のうち、対策(3)を実現したことになります。

そして、各検索式における公開特許公報とPCT国際公開公報のヒットの有無を○×記号で示しましたが、PCT国際公開公報がヒットしているのはS2とS7の検索式のみになっています。前述の3つの対策を実施した検索式を立案し展開することで、PCT日本語出願が公開された国際公開公報をヒットさせられることをご理解いただけると思います。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その3 FIの改廃内容を確認する」について解説します。

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