その7 J-PlatPatを使った特許調査事例(後編)
独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)より、無料で特許情報の検索ができる「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」が提供されています。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
1999年から「特許電子図書館(IPDL)」として始まった無料の特許データベースは、2015年には「J-PlatPat」として生まれ変わり、さらに、2019年5月には、大きく機能改善がなされて検索操作のインタフェースも大きく変更されました。
この講座では、特許調査の初歩の段階で行われる簡単な特許検索について、無料で手軽に使える「J-PlatPat」の実際の操作事例を紹介しながら解説していきます。
7.J-PlatPatを使った特許調査事例(後編)
前回に続けて、特許検索講座初級編の締めくくりとして、J-PlatPatを使って先行技術調査を実施した特許調査事例を紹介します。今回は後編で、本検索の検索式立案から説明を続けます。
(3)本検索式立案
前工程の予備検索で抽出されたFI、Fタームの特許分類と、同義語、類義語を拾い上げたキーワードを使って本検索の式を立案します。調査モレのリスクを減らすために重要なポイントが、「多面的な検索ライン」を立案することです。別の言い方をすれば、「検索概念の表現方法が異なる検索式を複数設定する」となります。
例えば、
(ⅰ)FIを主体に検索概念を組合せた検索ライン
(ⅱ)Fタームを主体に検索概念を組合せた検索ライン
(ⅲ)キーワードだけで検索概念を組合せた検索ライン
と検索式を設定すれば、3つの多面的な検索ラインを立案できたことになります。
それでは、今回の事例で立案した多面的な検索式を具体的に説明します。図43には、FIを主体とした検索式を示しました。
予備検索で抽出し採用したFIの「B42F1/02B」に対して、要約/抄録中に「レバー」の概念のキーワードを含み、全文中には「回動」の概念と「収納」の概念のキーワードを含むものに絞り込みました。
特許分類を活用することにより、ヒット件数の全てが「ダブルクリップ」に関するものであり、ノイズを少なくできます。
次に、Fタームを主体とした検索式を、図44に示しました。
予備検索で抽出し採用したFタームの「2C017BA02」と「2C017BA01」を使った検索式を立案しました。
「2C017BA02」に対しては、要約/抄録中に「収納」の概念のキーワードを掛け合わせて絞り込みました。「2C017BA01」に対しては、要約/抄録中に「レバー」の概念のキーワードを含み、全文中には「回動」の概念と「収納」の概念のキーワードを含むものに絞り込みました。
特に、「ダブルクリップ、レバー、回動」の概念を含んだ「2C017BA02」を使った検索結果を確認してみると、少ない件数でありながら多くの適合公報を含んでいることがわかりました。関連度が高い特許分類を特定し検索することが、効果的であることが実感されます。
次に、キーワードのみで設定した検索式を、図45に示しました
「ダブルクリップ」の概念を表すキーワードに対して、「レバー、回動、収納」の概念のキーワードを掛け合わせた検索式を立案するとともに、「ダブルクリップ」の概念を拡張して「クリップ」というキーワード部分だけを指定した検索式についても立案検討しました。
そして、最終的には5つのラインを足し合わせた回答集合を作成し、スクリーニングを実施しました。(図46)
5つの検索式にヒットする公報の重複を除去して足し合わせたヒット件数は110件(2020年4月時点)になりました。そして、その中に含まれていた適合公報の件数は15件でありました。
ちなみに、思いつくキーワードのみを使って検索を実施した場合と比較検討も行いました。比較式に示した検索を実施すると、ヒット件数は77件と少なく、適合公報の該当件数も半分くらいになっており、ノイズ公報の割合が多いことが分かりました。
ここで、全ラインを足し合わせる作業を行う場合の操作例を説明します。図47は、各検索ラインの論理式を作成し、取り出すための操作を説明した画面です。
図47 検索論理式に展開する画面
検索条件を入力して検索を実行した後に、「条件を論理式に展開」というボタンをクリックすると、「倫理式入力」のタブに表示が切り替わり、論理式の欄に実行した検索の論理式が作成されます。そこで、それぞれの検索ラインを実行して得られる検索式を、それぞれコピーして、メモ帳に貼り付けておきます。
次に、メモ帳にコピーしたそれぞれの論理式を貼り付けて、ラインとラインの間を「+」でつなげれば、全てのラインを足し合わせた検索論理式となり、「検索」ボタンをクリックすると全ラインを足し合わせた回答集合が得られます。
この論理式のテキストを保存して編集すれば、一つのラインごとに検索条件を入力することなく、一発で検索を実施することが可能になります。J-PlatPatの検索に習熟して、論理式をダイレクトに作成して検索できるようになれば、効率の良い特許調査を実施できるかもしれません。
(4)スクリーニング
最後に、J-PlatPatでのスクリーニング作業について説明します。全てのラインを足し合わせた回答集合に含まれる特許公報を、順番に1件ずつ精査しながら適合公報か否かをチェックしても構いませんし、1次スクリーニングから2次スクリーニングへと段階的にスクリーニングを実施しても良いかもしれません。
今回の事例では、説明文章を読まなくても、図面を見れば、レバーが回動して収納されるらしきものは判別できると思われるので、1次スクリーニングでは、図面のみをチェックして1次抽出を行い、2次スクリーニングでは、一次抽出した公報の文章の説明を読み解き、レバーが回動して収納される構造の有無と内容について詳細に精査する方法で進めました。
図49には、J-PlatPatで全図面スクリーニングを実施する方法を紹介しました。文献表示画面の一番下にある「図面」の項目の「開く」をクリックすると、全ての図面が連続表示されるようになります。
次に、図50には、検索論理式で指定したキーワードがハイライト表示された画面を示しました。
ハイライトされた部分を素早く注目できるようになるため、スクリーニング作業での見落としが少なくなり、効率的な調査を実現することが可能になります。
スクリーニングが終了したら、抽出された公報の集合のCSV出力を行ったり、抽出した公報のpdfデータをダウンロードして、調査結果をまとめます。(CSV出力を行うためには、事前にユーザー登録が必要です。ユーザー登録は無料です。)
(5)まとめ
J-PlatPatを使った特許調査の事例について、その進め方を詳細に説明しました。この事例で説明した、「FIやFタームなどの特許分類を活用する」ことや、「多面的に検索ラインを構築する」ことを意識して検索を実施することで、ノイズを抑えて、適合公報をモレなく濃密に得られる特許調査を実現することができると思います。
今回の特許検索講座の解説は以上です。今回で「初級編」の説明が終了しました。次回からは「中級編」にステージを上げて解説していきます。