その2 調査主題の把握とポイントの抽出

モノづくり企業がオリジナル商品を手掛けるときに特許に対するケアは必須です。事業を安全に進めるためにも、研究技術開発を効果的に進めるためにも、特許調査を実施することは必ず必要となります。

特許サーチャーが特許調査実務の担当を始めて、各種番号指定検索、出願人指定検索、特許分類指定検索、キーワード検索など、各種の検索式を立案し、検索により得られた母集合のスクリーニングを実施する経験を積み重ねる中で、検索モレに対する不安と闘いながら、膨大なヒット件数となってしまった検索母集合の絞り込みに苦労されていると思います。

この講座では、特許検索の実施プロセスについて、工程ごとの注意点について解説するとともに、モレが無くノイズが少ない検索を実現するために必要な「多面的アプローチ」について解説していきます。

 

2.調査主題の把握とポイントの抽出

特許調査の実施プロセスの全体を図4に示しました。また、各プロセスにおける注意点についても記載しています。

図4 実施プロセスと各プロセスにおける注意点

まず最初に調査主題の把握を行い、今回の調査で着目すべきポイントを抽出します。ポイントの抽出を行い狙いが定まったら、いきなり本格的な検索を実施するのではなく、本検索を実施する際に参考となる特許調査の糸口を把握するために、予備検索(プレサーチともいわれます)を実施します。次に、予備検索で把握した関連公報に付与された特許分類や、使用されているキーワードを参考にしながら本検索の検索式を策定します。さらに、策定した検索式により得られる回答集合の内容をスクリーニングして、不要なノイズは除去し、関連する特許公報をピックアップします。そして、ピックアップした特許公報の内容を精査して、得られた調査結果を調査報告書としてまとめます。

それでは、ここからは特許調査の実施プロセスの各ステップにおける注意点の詳細について事例を交えながら説明します。

良い特許調査を行うためには、調査対象となる技術を正しく理解したうえで、検索すべき技術を認定する必要があります。そのためには、調査主題の把握に際して、調査テーマを構成要素毎に分解し、分解した各構成要素同士の関係を明らかにします。

ここで、今回の説明に用いる事例について説明します。

 


【今回の事例】

文具のダブルクリップに関するものであり、レバー部に工夫を施して、開閉操作に要する力を低減したダブルクリップについて調査する。
具体的には、レバーを長くしたり、レバーを湾曲させたり、てこの原理の支点の位置を移動することで、開閉操作力を低減したり、弱い力で開いたり、軽く開くことを可能にしています。


 

しかし、「構成要素毎に分解」と言われてもピンとこないかもしれません。調査対象技術が工業製品であれば、製品をユニットや部品単位に分解し、その部品の形状や機能、材質などの特徴を把握することができます。それでは、実際に今回の事例において、構成要素毎に分解して、それらの関係を明らかにする作業とは、次の図5を頭に思い浮かべることになります。

図5 分解した構成要素の整理

書類を綴じるクリップには、ゼムクリップ、ダブルクリップ、目玉クリップなどがありますが、今回の調査対象は「ダブルクリップ」です。ダブルクリップは書類を挟む挟持部と、挟持部をつなぐ背部と、開閉のためのレバーとを備えていますが、今回の調査対象は「レバー」です。レバーに関連する技術要素としては、開閉操作を軽くするための工夫や、邪魔にならなくする工夫があり、材質についても工夫することが可能です。このようにレバーに関連する技術要素を工夫することで、軽く、弱い力で操作が可能になり、指で押す力を低減するという効果を奏することが可能になります。

次に、これらの構成要素のうち、どこが調査のポイントになるのかを明確にします。ポイントを見極めるヒントとしては、

「今までにはなかった、新規な部分はどこか?」

「今回の調査テーマのミソはどこか?」

「今回の調査テーマで差別化した点はどこか?」

「今回の調査対象技術のストロングポイントはなにか?」

といった質問を投げかけることにより、ポイントとすべき特徴が見えてくるのではないかと思います。

今回の事例では、図5の中で黄色の網掛けをした構成要素をポイントとして設定しました。文章で表すと、

「レバー操作を軽くしたことを特徴とするダブルクリップ」

「レバー開放操作力を低減したことを特徴とするダブルクリップ」

となりますが、ポイントとなる概念は「ダブルクリップ」「レバー」「操作が軽い、操作力を低減」の3つになると思います。そして、この3つの概念の関係性と、検索式で引っ張り出す重なりの部分をベン図に表したものが図6になります。

 

図6 検索概念とベン図

検索に用いるポイントとその関係性をベン図に表すことで、それぞれの部分に含まれるものがどのようなものなのかが明確になり、引っ張り出したい部分を検索式でどう表現すればよいのかが明確になります。

さらに、ポイントを抽出する段階でお勧めしたいのが、「ダブルクリップ」「レバー」「操作が軽い、操作力を低減」の3つ以外にも、絞り込むポイントを準備しておくことです。今回の事例では「支点距離を長くするもの」「支点を挟持板の中央に設けるもの」の2つを絞り込むべきポイントとして準備しました。

特許調査の実施内容は、決められた予算と納期の中で最大限有効な特許を抽出するための検索式を設定するということで決まります。そうすると、予算と納期に大きな影響を及ぼすものが「ヒット件数(検索該当件数)」になるので、ヒット件数を絞り込まなくてはいけない場面に遭遇します。その場になってから考えれば良いのかと思われるかもしれませんが、ポイントの抽出の段階で絞り込むべきポイントをあらかじめ準備しておけば、速やかにヒット件数を絞り込む手段として活用することができるのです。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その3 予備検索(プレサーチ)」について解説していきます。