その4 多面的な検索式の策定

モノづくり企業がオリジナル商品を手掛けるときに特許に対するケアは必須です。事業を安全に進めるためにも、研究技術開発を効果的に進めるためにも、特許調査を実施することは必ず必要となります。

特許サーチャーが特許調査実務の担当を始めて、各種番号指定検索、出願人指定検索、特許分類指定検索、キーワード検索など、各種の検索式を立案し、検索により得られた母集合のスクリーニングを実施する経験を積み重ねる中で、検索モレに対する不安と闘いながら、膨大なヒット件数となってしまった検索母集合の絞り込みに苦労されていると思います。

この講座では、特許検索の実施プロセスについて、工程ごとの注意点について解説するとともに、モレが無くノイズが少ない検索を実現するために必要な「多面的アプローチ」について解説していきます。

4.多面的な検索式の策定

予備検索を終えたら、次は本検索の検索式を策定していきますが、モレが無く、ノイズが少ない特許検索を実現するためには、検索式を多面的にアプローチすることが必要になります。「検索式を多面的にする」とは、別の言い方をすれば「必要な部分の網掛けを積み重ねていく」とも言えます。

図12に示したとおり、「特許A群:文具のダブルクリップ」と「特許B群:一般機械部品のクリップ」と「特許C群:文具の周辺分野」の全てを、周りに存在する「ノイズ」を含まないように検索するためには、奇怪な形状である「理想的な検索式」を一発で指定しなければいけません。しかし、理想的な検索式を一発の網掛けで引っ張り出すのは困難です。

したがって、図12の右側に示したとおり、まずは、「特許A群:文具のダブルクリップ」を捕獲する網掛けを行い、次に、「特許B群:一般機械部品のクリップ」を捕獲する網掛けを追加し、さらに、「特許C群:文具の周辺分野」を捕獲する網掛けを追加していくように、ノイズが含まれないように、必要な部分の網掛けを複数積み重ねていくことで、多面的な検索を実現することができます。

図12 多面的な検索式の考え方

さらに検索式を多面的にするために以下のようなアプローチも可能です。特に、モレを少なくするために有効な手当てになると思われます。

(1)概念の組み合わせが異なる検索式を複数設定する

「ダブルクリップ*レバー*操作」「ダブルクリップ*操作*軽い」「クリップ*レバー*操作*軽い」という、概念の掛け合わせが異なる検索式を設定することで、多面的な検索を実現できます。

(2)検索に用いる概念をIPC、FI、Fターム、キーワードのそれぞれを使って複数の異なる表現方法で表す

「B42F1/02B(ダブルクリップ)*全文=(レバー*回動)」と、「2C017BA01(ダブルクリップ)* 全文=(レバー*回動) 」と、「2C017BA02(回動する取手付きダブルクリップ)」の3つは、概念の掛け合わせはいずれも「ダブルクリップ*レバー*回動」で同じであるが、表現方法が異なっています。

(3)キーワードの類義語展開も多面的にする

キーワードの類義語展開は、シソーラス辞書や過去作成検索式を活用しながら、上位/下位、形状/機能、日本語/英語、ひらがな/カタカナ/アルファベット等の観点から展開する。

それでは、次に、今回の事例において実際に策定した多面的な検索式を紹介します。

【検索式A:クリップ文具】

「特許A群:文具のダブルクリップ」を見据えた検索式として、S1A~S6Aの検索式を立案しました。

検索式A=S1A+S2A+S3A+S4A+S5A+S6A

「文具としてのダブルクリップ」に関する特許、実用新案が含まれる回答集合Aを策定しました。検索式Aの中も多面的な展開が図られています。

【検索式B:工具】

「特許B群:一般機械部品のクリップ」を見据えた検索式として、S1B~S3Bの検索式を立案しました。

検索式B=S1B+S2B+S3B

「機械部品としてのクリップ」に関する特許、実用新案が含まれる回答集合Bを策定しました。検索式Bの中も多面的な展開が図られています。います。

 

【検索式C:文具周辺】

「特許C群:文具の周辺分野」を見据えた検索式として、S1C~S3Cの検索式を立案しました。

検索式C=S1C+S2C+S3C

「文具の周辺分野で用いられるクリップ」に関する特許、実用新案が含まれる回答集合Cを策定しました。検索式Cの中も多面的な展開が図られています。

理想的な検索式=クリップ文具(検索式A)+工具(検索式B)+文具周辺(検索式C)

以上に策定した検索式を統合することで、奇怪な形状の理想的な検索式に相当する集合を、モレが無く、ノイズも少なくしながら、引っ張り出すことができます。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その5 調査精度を向上させる検索テクニック」について解説していきます。