その3 技術系統分布図について
特許調査の結果を、見やすく、分かりやすく、一目で把握しやすくするツールとしてパテントマップがあります。特許調査により抽出された関連特許群の全体像を把握するとともに、個々の特許の中身を示して「見える化」するために、パテントマップを作成し、さらに、作成したパテントマップを活用して、知財活動や研究開発活動に生かしていくことは事業の発展に役立ちます。
この講座では、抽出した特許のポイントを要約するとともに、技術分類を設定しながら層別体系化した関連特許一覧表の作成から始まり、全体像を把握するための技術系統分布図や、技術のトレンドを把握するための時系列流れ図の作成するプロセスについて解説します。さらに、パテントマップを活用して開発テーマを模索したり、特許ポートフォリオ(特許網)を構築する事例についても紹介します。
3.技術系統分布図について
目的を達成するために必要な手段を樹木図状に展開したものが「技術系統分布図」です。目的を達成する手段を細分化でき、全体を俯瞰(一覧性がある)できる点が特徴です。
「技術系統分布図」は、FTA(Fault Tree Analysis:故障の木解析)と呼ばれる、故障を起こさない製品の設計手法をパテントマップとして応用したものです。例えば、自動車の燃料供給経路におけるFTA解析の場合、「燃料漏れ」という不具合は、燃料タンク、燃料ポンプ、配管、ホース、インジェクターの各部位で発生する可能性があります。そこで、各部位で発生が予想される燃料漏れ事象を想定しながら、燃料漏れが起こらない構造を設計するのです。
それに対し、「技術系統分布図」の場合は、「エンジンへの燃料供給」という機能を達成するために必要な手段が「燃料タンク」「燃料ポンプ」「配管」「ホース」「インジェクター」であり、各手段における燃料供給性能を向上させるアイデアが発明となります。
技術系統分布図の「半月」の記号は「ANDゲート」と呼ばれ、「三日月」の記号は「ORゲート」と呼ばれています。すなわち、ANDゲートの下にぶら下がる手段は全て必須となりますが、ORゲートにぶら下がる手段は、いずれかの手段で良いということになります。
技術系統分布図とは、特許調査により抽出し体系化された特許群の技術的な分布状況の全体像を俯瞰するとともに、個々の中身を把握することができるパテントマップです。具体的には技術体系化した系統項目を樹木図状に展開し、その系統項目にグルーピングされた特許のカードをぶら下げて表示します。図7には図4でグルーピングした特許を技術系統分布図にまとめたものを示しました。
作成した技術系統分布図を眺めると、ダブルクリップに関する代表的な10件の特許の全体像を俯瞰することができます。「書類の束を挟む」というダブルクリップの基本機能の他にもいろいろな機能が付加されていることが伺えます。
「挟持特性」という機能については「より厚いものを挟めるようにするためのもの」「書類をめくりやすくするために挟む位置を工夫したもの」「挟んだ書類を抜けにくくするためのアイデア」が見られます。その他にも、「操作性」「収納コンパクト」「軽量化」に関する特許が見受けられます。さらに、ダブルクリップの基本的な機能とは別に付加される機能として、「別の挟持機能を付加したもの」や「フックを付加して吊下げられるようにしたもの」が見られます。
こうして、抽出した関連特許群を技術系統分布図にまとめることで、調査テーマに関連する特許の全体像と、個々の特許の全体における位置づけと内容について把握することができます。
さらに、作成した技術系統分布図に課題情報を付加するとアイデア創出に使えるパテントマップにすることができます。図8には課題情報を付加した技術系統分布図を示しました。
マップ化した10件の関連特許には「書類厚さ対応、書類角部対応、抜け対策」「指が痛い、ケガする、レバー開放が重い」「レバーが邪魔になる、レバーを脱着したい」「軽い、安い」「追加挟持、吊下げフック」といった課題が記載されていました。これらの課題のキーワードを抽出し技術系統図に追記しておくと、アイデア創出時の着想のヒントになると思います。
このように、技術系統分布図は、「新機能を付加したダブルクリップの新商品」を企画するためのアイデア創出活動や、ダブルクリップの自社特許の発明アイデアを創出して自社特許ポートフォリオ(特許網)を構築する活動の場面で活用することができます。
今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その4 時系列流れ図について」を解説していきます。
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